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「おひとりさま」の終活を考える_1

具体的に「おひとりさま」とは?

最近、終活系の雑誌やネットコラムで「おひとりさま」と「終活」という言葉を目にすることがあります。「おひとりさま」と聞くとどのようなイメージが浮かびますか? 最近女性誌などで目にする「おひとりさま」には、「自立した女性(の上質な暮らし)」のことを指すようです。寂しさを感じることなく、“ひとりの時間”を心から楽しむ女性が増え、そしてそのライフスタイルに憧れを持つ女性も増えてきたのでしょう。

一方「おひとりさま」に「終活」というワードが付くと、その印象は随分と変わります。「終活」はご承知の通り「人生の最期を迎えるために行うさまざまな準備」、「最後まで自分らしく生きるための準備」とされています。ですから多くの人は60代でようやく意識しはじめるのではないでしょうか?この場合の「おひとりさま」は、性別は問わず下記に当てはまる方が対象だと言えるでしょう。

生涯結婚せずにひとり暮らし
離婚や死別でひとり暮らし
親族がいても“縁”が切れひとり暮らし
独立した子どもに頼りたくないとひとり暮らし
現役を引退してひとり暮らし

「健康寿命をのばす」、これは人生100年時代を「自分らしく生きたい」と考えるほとんどの人の願いです。そして「心配や、万が一に備える」この2つは「終活」の大きな目的です。「おひとりさま」の場合、複数人で生活する人より「やや高リスク」にあると言えます。

「おひとりさま」が意識的に終活を進める必要がある背景

ひとり暮らしはけっこう「リスク」が高い
複数人(夫婦、パートナー、友人、兄弟姉妹、親子…)で暮らしている高齢者よりも、「おひとりさま」の「リスク」が高くなる…ということは想像できます。では具体的にどのような「リスク」が多いのでしょう?

『健康面』

1.体の異変に気がつきにくい

自身ではなかなか気がつかない小さな異変。「顔色悪いよ」「食欲ないの?」など日々気にかけてくれる人が居ない
子育て中に、小児科の先生に「私より、毎日赤ちゃんと接しているお母さんの方が、いつもと様子が違うことをちゃんと分かるんですよ」と言われた言葉が、いまだに心に残っています。いつもと比べて食欲がどうなのか?顔色がどうか?という点は、生活を共にしてこそ気がつきやすい。「おひとりさま」はご自身以外に日常を通して、その異変に気がつく人が居ないというリスクがあります。気が付いた時には、即入院…となることも。

2.会話する機会が少ない

会話をしないことは、認知症のきっかけにもつながる
人は人と話すことで、脳は刺激されて活性化されます。コミュニケーションは、人とのつながりを感じることができ不安を軽減できます。「聞いてもらってスッキリした!」と話すことでストレスも発散できます。特に女性はそうですよね。「会話」の機会が少なくなると、高齢者はどうしても「認知症」のリスクが高くなります。高齢者に限らず、コロナ禍で多くの若者、特に大学生は人と人との接触を制限されて「ストレスや不安」を抱え苦しんでいます。リアルな人と人との“つながり”、「会話」(コミュニケーション)が、どれほど人間にとって大切なことか痛感します。複数人世帯の高齢者の約9割が「ほとんど毎日」会話をすると答えているのに、単身世帯では約5割とその割合はぐっと低くなります。(内閣府の「高齢者白書」より)

3.家事がおっくうになる・・・暮らしの質が下がる

フレイルティ(虚弱状態)になると、家事がおろそかになる
加齢と共に「体力や気力」が落ちてくる…のは、誰もが頭では分かっています。これも一人暮らしの方は気がつきにくい。つい最近までなんでもなくこなせていた家事やスポーツが、「やや辛くなった」と感じることが少しずつ増えてきてはいませんか?高齢者には、介護状態になる前の「フレイル」(弱い、もろいとう意味)という段階を経る、と考えられています。これは次の5項目でチェックができます。

1. ダイエットをしたわけでもないのに半年で2~3キロ体重が減少した
2. 握力が弱い(男性26kg、女性16kg未満)※ペットボトルのフタが開けにくくなったら、握力計で正確に測ってみましょう
3. 歩くのが遅い(60m/1分間)
4. 理由もなく疲労感がある
5. 運動習慣がない(例:1日1時間以上歩いていますか?)
3つ以上当てはまれば「フレイル状態」、1~2当てはまれば「プレフレイル状態」。ひとつも当てはまらなければ健常。「フレイル状態」になると、介護や支援は必要ないものの「家事の質」が落ちることが予想されます。バランスの良い食事が「フレイルティ」対策、とされていますので、負のループに陥ることのないよう注意が必要です。

4.病気になって入院するときは、同意書のサインに困る

高齢者に限らず、若くても「おひとりさま」が入院すると大変

「おひとりさま」の終活を考える_1

「急な手術で(お金の準備をする暇もなく)、お腹を切って入院してるのに(汗)『月末だから入院費の支払いをお願いします』と、病院の会計担当者に言われた」…これは「おひとりさま」の友人の入院時の経験談です。その病院内にはキャッシュディスペンサーがなく「向かいのコンビニにさえ、自分では行けなくて困った」と、退院後に話をしてくれました(汗)家族がいれば「入院費の支払い」は、頼まなくてもやってくれます。その頃まだ40代だった友人は、いつもはなんでもなく出来る“お金を引き出すこと”もままならない状況が、突然目の前に突きつけられたのです。友人は「ひとり者に厳しい」と困惑していました。
さらに「同意書」にサインしてくれるはずの親御さんから「病院まで行けない、長時間の手術を待つ体力に自信がない」と直前に言われて、手術ができなくなるかもしれない…という大変な状況に追い込まれた友人もいました(幸いお母さんがなんとか立ち会ってくれたそうですが)。親族でない場合は、同意書にサインできない・立会人になれないケースがほとんど…。高齢でなくても「おひとりさま」は、いざという時のために準備が必要です。

5.終末期医療の希望が通らない・伝わらない

意思表示ができなくなった場合、代弁してくれる家族がいない
延命治療をどうしたいか?自身の意思が伝えられなくなってしまったら、医療関係者を困らせてしまう…ということも考えられます。家族が居れば、自身の意思を代わりに伝えてくれることもありますが、「おひとりさま」はあらかじめ意思表示をしておくことが大切です。

6.孤独死の危険性がある

地域のコミュニティなどのつながりがない場合は、孤立してしまう可能性が高い
冬場はリビングと風呂場の急激な寒暖差が原因で、高齢者が事故に遭うリスクが高まります。いわゆる「ヒートショック」による死亡者数は、交通事故の死者数を大きく上回ります。同居人が居たら、何日も気がつかないことはないに等しい。その点も「おひとりさま」には注意と対策(入浴前に洗面所と浴室を温めるなど)が必要です。

『住まい』

1.「住み替え」がしにくい

単身高齢者を受け入れてくれる物件がまだまだ少ないのが現状
心身ともに元気なうちに今の住まいを「高齢になっても住みやすいか?」、「足腰が弱っても暮らしやすいか?」チェックしてみましょう。

1. 2階建ての家、玄関まで階段で上る家(ひな壇地)
家事動線に無理がないか?2階に荷物を持って上がっていけるか?
2. エレベーターのないマンションの2階以上の部屋
買い物の荷物を持って階段を登っていけるか?車イス生活になったらどうするのか?
3. 段差の多い家
バリアフリー対応でない住居は、つまずく箇所が多いため危険がないか?家事動線に無理はないか? 車イスが問題なく通るか?
4. 古民家
家はメンテナンスが伴う。屋根の修理、風呂、暑さ寒さ対策、バリアフリーではない、耐震性など古民家は維持することが経済的にも、体力的にもハードルが高い…どちらにも対応できるか?
5. 自動車がなければ生活ができない
運動能力や判断力の低下から、高齢者の運転には危険が伴う。クルマ依存の生活ができなくなった場合どうする?買い物、病院は歩いてまたは公共交通機関で行けるか?

体の衰えとともに「住まい」の安全性を考える必要に迫られたり、病院やスーパー、子世帯に近いと安心だから…など、さまざまな理由から「住み替え」をする高齢者は少なくありません。「おひとりさま」は、同居人のことを考える必要がないため「身軽に引っ越しやすい」というメリットがあります。ですが…賃貸の場合、部屋を貸す側が「単身高齢者」の入居を嫌がるケースが少なくありません。2017年に「改正住宅セーフティネット法」が施行されたとはいえ、状況はそれほど好転していないのが現状です。身寄りがない…と「孤独死」や「何かあった時に対応するのは誰なのか?」ということが貸す側にも大きなリスクになるのです。

2.家財が廃棄物となる

所有者がいなくなったら、どんなに高価でも・大切なモノでも大量の廃棄物となってしまう。遺品整理にはコストがかかる
以前私が目の当たりにした遺品整理の作業の話です。都内からほど近い高級住宅地にあるお医者様だった方のご自宅からは、驚くほどの「廃棄物」が。「廃棄物」と言っても素晴らしい着物や、茶道具、額や、贈答品の数々です。中には封を開けることもなく押入れの奥の方に「ブランドの花器や食器」が数多く押し込められていました。このようにたとえ価値があるモノでも「所有者」を失った途端、「不要物」となってしまいます。「おひとりさま」は、万が一の場合は、使ってくれる次の所有者が全く居ない場合、即「廃棄物」とされる可能性が高い。また処分費用は誰が負担するのか?そのリスクからも「おひとりさま」は住み替えがしにくくなる一因ともなります。

3.自宅の土地建物が空き家のままになる

「おひとりさま」の終活を考える_1

家屋の処分費が、宅地の売却費用よりも高くなる場合は空き家のまま放置される可能性が高い
全国で増加する空き家が社会問題となっています。空き家を放置すると…

建物が老朽化する
景観の悪化
防犯・防災上の不安

放置することは、周辺の住民や自治体に多大な迷惑を掛けることになります。

『その他』

1.遺産がどうなるのか?わからない

遺言書がなければ、法律に従って相続される。お世話になったから、と言っても遺言書がなければ遺産を贈ることは不可
遺言書がなければ、民法に従って相続されます。相続人がいなければ最終的に国庫に入ることに。2020年7月に始まった「自筆証書遺言保管制度」は、ご自身の財産を確実に託せる方法のひとつとして活用が勧められています。これも遺言者本人が法務局へ来所しなければなりません。ですから早めに準備をする必要があります。

2.望む葬儀ができない・お墓に入ることができない

友人や、お世話になった人に送って欲しい…と願っていても誰かに託しておかなければそれは難しい
行政に委ねられることが多く、火葬後は合祀墓に。先祖代々のお墓がある。生前に永代供養墓などを用意してある…などは、事前に誰かに託しておく必要があります。

「おひとりさまの終活」にはさまざまな課題がありますが、それらは生前に準備できることばかり。さまざまな支援サービスを活用して「備え」ておけば安心です。「おひとりさま」に限らず「終活」は…

気になった時に
早めに
少しずつ

が「嫌」にならない・気軽にはじめられるコツです。

特に「おひとりさま」は、「生前」と「亡くなってから」に家族と暮らす(複数人暮らしの)高齢者よりも協力が得られにくいために、より意識して「終活」を進める必要があります。

「おひとりさま」に限らず、「終活」は、今を安心して生きるための「備え」です。「自身ではどうにもならない」場面は、「いつか」ではなく…突然やってきます。今は「おひとりさま」をサポートする自治体や民間のサービスも数多く存在します。今後は自治体による「終活支援事業」はますます整備される傾向にあります。周囲に迷惑をかけないためにも「後回し」にせず、取り組んでいきましょう。「おひとりさまの終活を考える_2」で具体策をご紹介してまいります。
© 2021 澤渡裕子