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正しい「遺書」と「遺言書」の書き方

正しい「遺書」と「遺言書」の書き方

「遺書」と「遺言書」の違い

「遺書」と「遺言書」は、字面は似ていますが、実際の意味と役割はまったく違います。遺書と遺言書の最大の違いは、法的制約を受けるか否かという点にあります。

法的な文章ではない「遺書」

遺書は、自分の意思を誰かに伝えるための私的文書であり、書式や内容に法的な制約や効力は一切ありません。レポート用紙への走り書きや、便箋に書いた手紙のほか、ビデオメッセージや音声テープなども遺書の一種です。
一般的な内容としては、遺族に知っておいてほしい生前の想いや、関わりのあった人などへの感謝の言葉、死後のお願い事などを書き残すことが多いようです。
どちらかというと個人的なメッセージが中心で、財産分与などについて言及することはほとんどありません。

法的な文書である「遺言書」

遺言書は、民法で定められた法的な文書です。書式から作成方法、効力、内容に至るまで細かく規定されています。遺言書には、「遺族にどのように財産を分けてほしいか」という意思を書き残すことによって、相続争いを未然に防ぐ役割があります。指定の形式に則って書かれた遺言書の内容は守らなくてはなりません。なお、遺言者以外が内容を書き換えると、罰則を受けることもあります。

遺言書には書式ごとに種類があり、定められた作成方法に従い、正しい形式で書かれていないと一切の効力を失います。また、遺言書を作成したとき、遺言者が認知症などを発症していて意思能力がない場合や、遺言者以外の第三者の意思が反映されている場合、遺言適格年齢とされる15歳未満の場合も、無効となります。

作成方法で変わる遺言書の種類

遺言書には、被相続人である遺言者が自筆で書く「自筆証書遺言」、公証人が遺言者の真意を文章にまとめる「公正証書遺言」、遺言者が自筆なりワープロなどで作成し、署名捺印をした上で封じたものを公証役場に持ち込む「秘密証書遺言」の3種類あります。

様々な注意点がある遺言書の書き方・自筆証書遺言
自筆証書遺言は、簡単に作成できる遺言書の形式です。
遺言者は、紙に遺言の内容、作成の日付、氏名をすべて自筆で書き記し、署名の下に押印することによって作成します。遺言者が字を書ける状態であれば書くことができますので、3種類の中では最も手軽で費用も抑えられる方法です。また、自分一人で作成できますので、内容や遺言書の存在を秘密にしておけるのもメリットです。
デメリットとしては、書式や内容には非常に細かな定めがあり、訂正の仕方まで厳格に決められているため、ひとつでも不備があると無効になってしまうリスクがあります。また、隠したまま発見されなければ意味がありませんし、自筆証書遺言を発見した人がこれを破棄したり、隠匿したりする可能性がないともいえません。

・公正証書遺言
相続人以外の2人の証人とともに公証役場に足を運び、公証人に遺言の内容を口授して作成してもらうのが公正証書遺言です。複雑な内容の遺言でも不備になるおそれがなく、最も安全・確実な方法だといえるでしょう。原本は公証役場に保存されるため、悪意の第三者による破棄や改ざんのおそれもありません。
遺言者が自筆で遺言を残せない状態にある場合も最適です。遺言者の体が不自由であるなど、特別な事情があれば、公証人に出張してもらえます。
デメリットとしては、費用と時間がかかること、信頼できる証人が2人必要なこと、遺言書の存在と内容が証人に知られてしまうことが挙げられます。

・秘密証書遺言
秘密証書遺言は、自分で作成した遺言を公証役場に持ち込み、内容を伏せたまま、遺言書を作成したという事実を明確に残せる方法です。遺言者自身が署名、捺印すれば、ワープロやパソコンで作成しても、代筆を依頼しても構いません。
メリットは、自筆証書遺言の「自筆で書くこと」「第三者による破棄・秘匿の可能性」という点が回避できること、公正証書遺言の「第三者に内容を知られてしまう」という点をカバーできることです。
デメリットは、遺言者しか内容を確認していないため、法的な不備があって無効となったり、相続人の争いの種になったりすることです。

遺言書が無効になる場合とは?

遺言書が法的に認められるには、厳格な法定要件を満たす必要があります。では、遺言書が無効となってしまうケースには、どのようなものがあるのでしょうか。よくある例をご紹介します。

自筆証書遺言が無効となる場合

自筆証書遺言は、その名のとおり「全文が自筆で書かれていること」が絶対条件で、パソコンを使って書いた遺言書は認められません。また、日付や署名、押印がない場合や、「2017年吉日」というように日付の書き方が曖昧な場合など、内容に不備があることで無効になるケースもあります。

公正証書遺言が無効となる場合

公正証書遺言は、前述したとおり公証人立ち会いのもとで作成されるため、無効になるケースはごくまれです。しかし、遺言者が認知症で、思考力、判断力が低下していて「遺言能力」がないにもかかわらず作成された公正証書遺言などは、無効とされる例もあります。
また、相続人など、証人になれない人が立ち会った場合や、証人のどちらか、または両方が、作成の途中で席を外した場合など、2人の証人に不備がある公正証書遺言なども、無効とされる例があります。

秘密証書遺言が無効となる場合

秘密証書遺言は、ワープロやパソコンでの作成や代筆も認められていますが、遺言者が自筆で署名しなければ無効になります。また、遺言書を封印する際にも封筒の綴じ目に押印が必要ですが、このハンコが遺言書本文に使用したハンコと同じでなければ無効になってしまいます。

遺言書に書くべきこと

次に、遺言書に書くべき内容についてご紹介します。
「遺言書に何を書くべきか」は、「遺言書で何ができるか」ということでもあります。遺言書に書くことで効力が発生する事項は、「遺言事項」として民法で定められています。

(1)身分に関する事項
・内縁の妻との間の子供を認知し、相続人に加える
・未成年後見人の指定

(2)相続に関する事項
・推定相続人の廃除、及び廃除の取消し
・相続分の指定、及び指定の委託
・特別受益の持戻しの免除
・遺産分割の方法の指定、及び指定の委託
・遺産分割の禁止
・遺産分割した財産の担保責任
・遺留分減殺方法の指定

(3)遺産処分に関する事項
・遺贈
・寄付
・信託の指定

(4)遺言執行に関する事項
・遺言執行者の指定、及び指定の委託、職務内容の指定

(5)その他
その他の項目としては、「祭祀主宰者の決定」や「生命保険金受取人の指定及び変更」などがあります。これらの項目に関する記述がなければ、遺言書としての意味をなしません。逆にいえば、上記以外のことを書いても、法的な効力は発揮されません。
生命保険金受取人の指定及び変更は言葉どおりですが、祭祀主宰者の決定には注意が必要です。
基本的に祀主宰者は、配偶者や長男・長女を指定するケースが多いです。しかし、祭祀主宰者と相続順位は一切関係がないだけでなく、血縁関係にある相続人である必要もありません。希望すれば、親族関係にない他人を指定することもできるのです。
ただし、祭祀主宰者は被相続人の遺志に反して祭祀財産を処分したり売却したりすることもできる、非常に大きな権限を持つ存在です。一時的な感情に流されず、将来にわたって信頼できる人をじっくり検討した上で選ぶようにしましょう。

では、「葬儀の方法や遺品処分に関する希望」「家族や友人への感謝の気持ち」といったものは、どこに記せばいいのでしょうか。遺言書には、「法定遺言事項」のほか「付言事項」と呼ばれる項目があります。この項目には、法律に縛られることなく、遺言者の想いを自由に綴ることができます。
例えば「海に散骨してほしい」「妻の遺骨といっしょにしてほしい」といった葬儀の方法を書いておくのもおすすめです。

また、お墓の継承については、これまでは家を継ぐ長男が継承することが慣習化していました。しかし、一人娘が嫁いでしまっているなど、親族間で継承できないケースも出てきましたので、こちらについての記載もあると良いでしょう。
ほかにも、遺品処分に関する希望、家族への謝辞、遺言を書いた理由や経緯などを書いておくと、遺族に想いが伝わりやすくなります。

祭祀に関する終活準備は、トラブルの防止につながります。付言事項に属する内容については、遺言状とは別にエンディングノートを用意したり、事前に家族と話し合ったりして意思を示しておけば、より安心でしょう。
関連コラム⇒『生前にお墓を選ぶ「生前建墓」とは?メリットや流れを解説』

【遺言書のサンプル】
遺言書のサンプル書式

遺言書がないことでトラブルになるケースとは?

「遺産相続をめぐって兄弟姉妹が争い、家族関係が崩壊した」という話の多くは、遺言書がない、または遺言書に不備があって無効となったことに起因しています。
遺言書がない場合、相続財産の配分について相続人同士が協議して合意すれば、被相続人の「子」「直系尊属」「兄弟姉妹」及び「配偶者」のみが「法定相続人」となり、一人あたりの法定相続分が決まります。もちろん、全員の同意が得られれば、法定分割でなくても構いません。

しかし、実際には、話し合いだけで分配を決めるのは非常に困難です。例えば、下記のようなトラブルに発展するケースがあとを絶ちません。

・故人と同居や介護をしていた人が「最後まで面倒を見たので多く遺産を受け取りたい」と主張
・長男や長女が「家を継ぐのは自分だから」と公平な分配を拒む
・相続財産の多くが不動産で、遺産分割が進まない
・異母兄弟、異父兄弟など、故人が亡くなるまで存在を知らなかった相続人が現れる
・相続財産の全容がわからず、相続人同士の間に不信感が生まれる

最終的には家庭裁判所による調停分割、審判分割となりますが、相続人同士にしこりが残りますので、以前の関係には戻れないことが多いようです。
遺言書は元気なうちに書くことが重要

遺言書を書くときの注意点

次に、遺言書の作成にあたって注意すべき点をご紹介しましょう。

気持ちを整理してから書き始める

遺言者の心情は、状況に応じて変わりますので、「なぜ遺言を書くか」という点を見つめ直してから書き始めましょう。「家族関係が悪化したから、遺産の配分を変えよう」など、一時的な感情に惑わされないよう注意しなくてはなりません。

相続人の範囲を確認しておく

自分が被相続人となった場合、相続人は誰と誰になるのか、しっかり把握しておきましょう。

記載漏れを防ぐため、財産内容を見直す

不動産や預貯金といった財産以外に、保有している財産がないかを見直しましょう。すべての財産を書き出して目録を作っておくと、記載漏れを防ぐことができます。なお、「どんな財産がどれだけあるか」だけでなく、「どこにあるか」も書いておくと遺族にとっても安心です。

遺言書は元気なうちに書くことが重要

遺言書で「誰に、何をどのくらい残すか」を決めておけば、遺産分割協議の手間が省け、遺族間のトラブルを回避できる可能性が高まります。目前に迫った死を前に書く「遺書」と違って、「遺言書」は元気なうちに、家族の今後の幸せを願って作成するものです。「遺言なんて縁起が悪い」「たいした財産はないから」と考えず、大切な家族の暮らしを守るためにも、元気なうちに遺言書を作成しておきましょう。

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